『Kanata』セルフライナー


 はじめに、Mellowheadの新しい作品をこうして発表できることになったのは、ずっとMellowheadの屋台骨を支えてくれている素晴らしいプレイヤーにして、国内最高のリズムセクションの一つだと思っている小松シゲルくん(Dr)、林幸治くん(B)、極控えめに言って天才キーボード奏者渡辺シュンスケくん(Key)フィーチャリングボーカルで参加してくれた、ずっと第一線で活躍し、今なお最高の歌声とクリエイティビティで多くの人々の心を揺り動かしている片寄明人くん、西寺郷太くん、堀込泰行くん、過去の作品に参加してくれた佐野元春さん、ターナーカーくん、歌・コーラスだけでなく作詞でもサポートしてくれた竹内宏美さんという、協力してくれた素晴らしいミュージシャン達、最大限の理解と努力をしてくれているスタッフ、そして、いまこれを読んでいる、いつも作品を聴いてくれている皆さんのおかげです。本当にありがとう。

 作品をリリースするたびに同じようなことを書いているようだけど、毎回こうして文章にすることの重みは増していくような気がするし、それでこそ、聴いてくれている、期待をしてくれている人達を失望させないようなものを作れ、という得難い良いプレッシャーを僕に与えてくれているのです。それがあってこそ、全身精霊をもって作品作りができるし、無かったらここまで続けて来られなかった、と思います。

disc1

01.「逆光のせい」

 2014年12月にアルバムを作るために書き下ろした曲の中のひとつで、その直後のライブで即演奏した曲。書き上がった時からアルバムの1曲目にしよう、と思ったし、なお且つ、(堀込)泰行くんにも歌ってもらって、2バージョン入れよう、というアイデアも思い浮かんだ。今回のアルバムの--------最初からそうしようとはっきり思ってたわけではないが、帰納法的に--------大きなテーマとなっている「過去と、過去においては未来だった現在と、今思う未来」そして「憂いを持ちながらも前に進んでいく」という二つを歌詞に内包している。最後の執拗にラララが続くところは、主人公の「いろいろ不安に思うことも言いたいこともたくさんあるが、あえて言葉にはしないで前に行く!」という意志を表現したかったので、一言も言葉を乗せなかった。8回のリフレインには、様々な想いが込められていると感じていただけると嬉しい。

とてもシンプルな曲なので、その分音作りの設計には時間をかけた。ギターはアコースティック・エレキを併せると10本分が代わる代わる鳴っている上にマンドリンまで入っている。マンドリンはchayの「Twinkle days」をサウンドプロデュースしたときに購入して一夜漬けで憶えたのだが、その後少しずつ練習して自分の曲にも使用してみた。この曲のメインボーカルのトラックは実は作曲したときに歌ったデモのまま。何度も歌ったんだけど、デモを越えることは無かった。

02.「その予感」

 2010年あたりからあった曲で、その後何度も歌詞を書き直してきた。「逆光のせい」と並んで、アルバムのテーマにとても近い曲だと思ったので2曲目に収録した。デモも以前から何バージョンか作っていたのだが、どうしても何かが欠けている気がしていた。そこを最後に、何かが欠けている気がしていたことなど忘れる程に素晴らしく曲を完成させてくれたのがシュンちゃん(渡辺シュンスケ)のピアノだった。改めて彼は、1音ごとに才能が迸る天才だと思い知る。

 元々はアコギのみのシンプルな形だったのだけど、ピアノが入って華やかになった分、他にもいろいろと工夫をした。ハープのサンプルが時々登場するけど、あれはコード的にはピッタリ合っているとは言えないものだった。それをしつこくEQなどで加工して最終的には違和感なく乗せることが出来た。

03.「Silent bliss」

 MUSEE PLATINAMのTVCMの曲の依頼を受けて、当時chayのレコーディングや、佐野さんのライブ等でぎっしりとスケジュールが詰まった中、旅先でプログラミング等をして作った思い出が蘇る。出稿量の多いCMで尚且つ映像も既にあがっていたので、当然様々なことが要求されたが、それに応えることでいろいろと勉強になったし、最終的に完成されてオンエア版を見たときには非常に達成感があった。初期Mellowheadはバックトラックを完全に個人で完結する形だったので、この曲はその潮流の上に位置すると思う。

 CMバージョンでは30秒足らずだった曲なので、逆に楽しんで長いバージョンを作ろう、とグロッケンのソロ等で構成した。クロマティックなフレーズ回し等はいろいろなサントラ等を参考にした。冒頭からずっと続いているアコギのアルペジオは10フレットというわりとありえない場所にカポタストをつけて弾いている。

04.「未完成(feat.堀込泰行)」

 「泰行君のボーカルは以前から大好きで、「魔法のようなこの声で自分の曲を歌ってもらうとしたらどんな曲を書けば良いかな?」という妄想が現実になったことが本当に嬉しい。その分、彼に送る前に作成したデモは膨大な量で、「未完成」という曲だけで3曲同名異曲があったほど。「歌詞も全てお任せして、僕がそれを歌います」ということだったので、歌詞も相当書き直しを重ねた。個人的に「未完成」は嫌いな言葉ではない。僕は過去も自分の曲を何度も別バージョンとして録り直したりしていて、そして、その時々はこれこそ「完成」版!と思ったりするんだが、なんというか、自分の音楽はある意味死ぬまで未完成で良いし、追いかける物は遥か「彼方」にあって良い、と思っている。

 リズムセクションの音のテイストが非常に大事だと思ったので慎重に音作りをしてもらおうと思っていたのだけど、彼らがさくっと作った音で既にOKだった。本当に凄い2人である。最後のギターソロはやけくそな異物感が欲しかったのでダーティーかつ透明感もある音を目指して音作りした。

05.「スパムの森」

 (おそらく)皆さんと同じように、家のPCにはスパムメールが山ほど来るし、いろいろと設定で仕分けるようにはしているけども、それでも、一日の始まりは、起きて「削除」ボタンをクリックすることに変わりはなかったりする。この歌の主人公はそういったルーティンの中に大事な、受け止めて反応するべき言葉が詰まったメールがあったことをある日気付いて、失われた物を日付を辿って取り返そうとする。曲調が途中で変わるときにベッドから飛び起きている、と想像して聴いて下さい。

 既にライブで何度か演奏していたのでレコーディングはスムーズだった。まともなストラトキャスターを初めて買って、その勢いで作った曲なので、ギターは全てストラトを使用して、しかも、今まで使ったことが無かったトレモロアームを多用している。

06.「Come together」

 実に単純なコード進行の曲で、音作りもシンプルそのもの。ギターの音もいかにも自分のいつものやつって感じではある。でも、こういった曲を完成まで楽しんで作り込めるのも、小松/林という素晴らしいリズムセクションが最高の演奏をしてくれるから。歌詞は言い回しが不安だった部分等竹内さんにも一部協力してもらった。

 イントロのギターの音がとても重要なことは言うまでもないんだけど、POD HDのいつもの設定からAVALON U5(D.I)といういつもの感じでOKだった。というかあまり奇をてらってねばってもわりと失敗するものだ。

07.「Memory man(feat.片寄明人)」

 元々はコンピレーション(「無限35」2009)に収録されていた曲だけど、生のリズムセクションを前提に再構築して収録した。片寄くんの素晴らしい詞作は出会った頃から現在まで、一度もその切れ味と美しさと儚さを失ったことがない。ボーナスディスクには僕の歌のバージョンも入っているけど、この曲を歌っているときにはその歌詞の強さを思い知った。

 このもの凄い存在感のドラムス&ベースも、ほとんど彼ら2人の音作りによるもの。元が良く無いと後からこうした音には絶対にならない。小松くんは、バスドラ、スネア、ハイハットの3点だけをセットして他は何も置かずに叩いている。

08.「残像の部屋(feat.西寺郷太)」

 郷太くんの弟、西寺阿楠くんがやっていたバー「SUNKING」。事情があって閉店してしまったその素敵な場所と思い出をイメージして、そして、皆さんにもそんな場所があるのではないか、と同時に思って書いた。作詞に関しては、そうしたコンセプトのアイデアを郷太くんにもらって、まず僕が半分ぐらいを書いて、彼がさらに半分を書いて、最後に歌いながら2人で調整した完全な共作。郷太くんの歌を単体で聴くと(まあ、正直ボーカリストとしてはこれをやられるといやだろうけど)とにかく歌の中に全てのグルーヴが既に詰まっている。ブレスですら合いの手のパーカションのように絶妙のタイム感で入ってくるのに驚いた。彼もまたもの凄いボーカリストだな、と改めて思った。

 郷太くんが歌うので、同じNONA REEVESの小松くんが叩くのではなく、敢えて、僕が全てリズムセクションを作った。特にベースに関してはハーモニックス鳴らしてみたり和音でいってみたり、と、ろくに弾けないなりに頑張ったつもりである。そして、シュンちゃんのピアノはここでも素晴らしい。

09.「乾いた涙無駄にならないように」

 元々「コーラフロート」というタイトルで、ライブで聴いてくれた人達に密かな人気もあった曲だったのだが、なんとなく歌詞に納得がいかなかったりしてこれまで収録されなかった。今回はタイトルも変え歌詞も書き直して収録した。

 自分のプログラミングもののなかでも相当時間をかけた曲で、ドラム、エレピなどはそれだけで丸一日かけてやった記憶がある。今回は時間も経っていたので、音源ソフトも変えてそれをさらにリファインした。この曲も小松くん林くんなら生で再現できるだろうけど、ここまで構築的に仕上げたのでそのまま仕上げることにした。

10.「5秒前のゴースト」

 昔レースゲームなどをやっていて、よくみんなでタイムアタックのタイムを競っていた。この手のゲームは最速ラップの時のゴーストが出るようになっているので、ようはそれより速く走れれば最速なのである。自分がファステストを出している状態であれば、当然それはうまく走れた時の自分との戦いになる。普段生活していても「忘れ物がなければ今頃目的地に着いてた」みたいなことを思うことは多い。でも、それによって思わぬ人に会えたり等することもある。時間は不可逆で人生もリセットできないからこそいろいろなことを人は思うんだろうな。

 2014年12月に曲をまとめて書いたとき、最初にウオーミングアップ的に録ったデモがこの曲。この曲の歌もデモのまま。これも何度か歌い直してみたんだけど、どうも、より良い雰囲気が出なかった。

11.「栞」

 作曲のデッドラインが押し迫った次期。僕の人生においてとても大事な人が重い病気で入院した。この人が生んでくれなければ僕はいないのだから大事に決まっている。手術に付き添っている間、いろいろな覚悟をしなければならないのだろうという思いにも取り憑かれたりしていたのだけど、4時間程たった時だったか…ふと「大丈夫かもしれない」と思った。理由も無く。その時に-----僕はあまりこういったことを妄信的に信じるほうではないんだけど-------はっきりと血の繋がりのようなものを感じたことを昨日のことのように思い出す。まあ、実際退院1週間後に病院の方々へのお礼の品の買い物に運転手としてつき合わされてデパートとかに行くことになるんだから、それは間違ってはいなかったのだけど。人は必ず、みんな、いつかは死ぬ。だからこそ、誰とでも一緒に過ごす時間は大事にしたい。

 リズム隊の2人とのレコーディングセッションで最初に録ったのがこの曲。シンプルに、基本を確かめるようにプレイしてとても良いテイクを残してくれた。

12.「手の温度」

 弾き語りのライブ等で何度か演奏していたので知っている方も多いかもしれない。元々鍵盤で弾き語りできないかな、と思ってキーをCで書いていたんだけど、Cだとどうもイメージが違う。結局Bに移調した。曲のキーはとても重要で、半音で全く世界が変わってしまう。

 昔学生の頃、小さなワンルームマンションに住んでいた時は、夜中にデモの歌を歌うになどは非常に気を使って、とても小さな声で歌ったりしていた。でも、その小さな声で歌った感じが良くて、スタジオで全開で歌うとどうも違う、ということもあった。この曲は普通に歌ったデモバージョンがあったんだけど、いまひとつ雰囲気が出ていない気がしていた。今回のテイクはその夜中に小さな声で歌っていた感じを思い出して同じように限界まで抑えて歌っている。

13.「逆光のせい(reprise _ feat.堀込泰行)」

  前述したように、この曲を泰行くんにも歌ってもらって、最後もこの曲で締めくくろう、と曲が出来たときに思いついた。アレンジや音作りも泰行くんの声に合わせていろいろと変更している。シュンちゃんのピアノ等によって、また別な色使いで世界が描けたかな、と思っている。

 実は、途中1:34辺りのシンバルが伸びるところで、ドラムトラックに小松くんの「あーーー」という声が入っていたのだが、その理由。●ここで生ドラムから打ち込みに切り替わる●なので次の小節1拍目のバスドラはいらないがシンバルは打って欲しい●なのでここだけはバスドラ抜きでシンバルを叩いてブレイクする(体の動き的には相当やっかい)------という局面で、その次の1拍目のバスドラを踏んでしまったから、だったのだ。2種類のバスドラのタイミングがバッチリあっていて一音にしか聴こえないので僕もなかなか気付かなかった。結局1拍目だけ打込みのほうをカットして2拍目から出てくることにしてあるので問題ないんだけど。

disc2

01.「Better days(feat.佐野元春 2015 New mix)」

 原曲は「Daydream weaver」(2009)に収録。佐野さんとのコラボレーションの第2弾として書いた曲で、自分としてもとても気に入っている曲。曲も歌詞も僕が作ったんだけど、歌いだした瞬間に佐野元春の世界である。説明不要の説得力には敬服するしかない。

02.「Convertible(feat.片寄明人 2015 New mix)」

 原曲は最初のフルアルバム「Mellowhead」(2003)に収録。片寄くんとの最初のコラボレーション曲で、初期メロウヘッドを象徴するような曲。キャラクターの違う2人のボーカルで曲の演出をするところは、ある意味では後のGheeeの楽曲に近い曲作りだと思う。

03.「ラハイナ(feat.TURNER CAR 2015 New mix)」

 Mellowhead最初の作品であるミニアルバム「ラハイナ」(2002)のタイトル曲。最初にコラボレーションをお願いしたのがTurner carくん。Grapevineは超初期のタワーレコードでのイベントライブを見て以来の、いうまでもなく大好きなバンドで、彼とはずっと何かをやってみたかったので、真っ先に声をかけたことを憶えている。家で2人でしこたま呑んだことも憶えている。

04.「MABATAKI Rewind(feat.竹内宏美 English ver.)」

 以前、ちょっとしたタイアップの話があって、英語詞で、ということだったので、竹内さんに頼んでこのサビ英語バージョンを作った。結局話は流れてしまったんだけど、このバージョンを聴いて欲しくて収録した。同時に少しアレンジも変えている。

05.「Leviathan」

 おそらく1stアルバム「Mellowhead」と次の「Untitled」の間辺りに作った曲。全体的に不穏な空気が漂っていて、これからメジャーデビュー、という空気とそぐわずに選考から漏れたと思われる。変な曲だけど、今聴くと悪くない。

他、「未完成」「残像の部屋」「Memory man」3曲の自分で歌ったトラックも収録されている。正直どれもオリジナルには遠く及んでいないけど、それで良いと思っている。彼らが光るような曲と音作りをそれだけ集中して出来た、ということだからだ。これらの曲たちは、ライブで自分なりの色をこれからだしていければ、と思っている。

USB

「Daydream waever」

 同名のアルバムに結局収録されなかった曲。「Daydream waever」では、わりと生リズムセクションでの音作りを前面に出したかったので、肝心のタイトル曲がフルプログラミングでは…ということで外したのだと思う。

「Stupid diary(English ver.)」

 MABATAKI Rewindの英語版を作ったときに一緒に製作した。正直日本語がまだ透けて見えるような、英語としてこなれていない譜割に感じるところもある。